研究室紹介


 私たちの研究グループでは、現在の地球の気候がどのように形成・維持されているのかを理解し、今後どのように変化していくのかを予測するために、特にエアロゾル・雲・降水に着目して、それらの気候への影響を理解するための研究を行っています。雲は、太陽から地球に降り注ぐ短波放射エネルギーを効率良く反射することによって気候を冷やすはたらき(日傘効果)を持つ一方、地球から宇宙空間へ逃げていく長波放射のエネルギーを閉じ込めることによって気候を暖めるはたらき(温室効果)も持ちます。さらに、雲から生成する降雨に伴って放出される潜熱は大気を暖めるはたらき(潜熱による加熱効果)を持つために、対流活動を活発化させて大気循環に大きく影響します。また、大気中に浮遊する微粒子であるエアロゾルは、それ自身が太陽光を吸収・散乱することによって地球のエネルギー収支に影響する(エアロゾル・放射相互作用)ほか、雲を変質させることによっても地球の気候や水循環に影響します(エアロゾル・雲相互作用)。このような外部強制力による地球のエネルギー収支変化の全体像を正確に捉えることは、気候研究にとって基本的な重要性を持ちます(図1)。

こうした予測を難しくしている主たる要因のひとつは雲です。その理由は、雲が持つ相反する二つの効果(日傘効果と温室効果)が気候変化に伴ってどう変化するのかを予測するのが難しいためです。これら二つの効果のどちらが勝るかは雲の高さや厚さによって異なり、高さの低い雲は主に日傘効果、高い雲は温室効果を持ちますが、地球温暖化などで気候が変化したときに、様々な高さの雲がそれぞれ増えるのか減るのか、それによって気候の変化が加速されるのか減速されるのかは現在の知識ではわかっていません。当グループでは、地球のエネルギー収支へのこのような雲の放射影響を定量化するための研究を行っています(図2)。



雲の気候影響を精度良く予測するためには、数値気候モデルにおいて雲を適切に表現する必要がありますが、現在の気候モデルはその解像度が粗いために、雲の表現に問題を抱えています。そこで、当グループでは、近年発達を遂げている人工衛星の観測データを積極的に用いて、気候モデルが直接解像できない雲のありのままの姿を詳細にとらえるための研究を行っています(図3)。

このような研究がもたらす雲の物理過程に関する観測情報は、幅広い時空間スケールにわたる雲の気候影響をより良く理解するために有用です。当グループでは、このような衛星観測情報を全球高解像度モデルとも組み合わせて用いることで、数値気候モデルにおける雲の表現を評価・改良する研究に取り組んでいます(図4)。

これと対をなすアプローチとして、個々の雲のスケールで雲粒がどのように生成して降水をもたらすかを小さい時空間スケールで詳細に理解する研究も重要です。このために、Large Eddy Simulationモデルを用いて個々の雲を詳細に再現する実験も行っています(図5)。

雲の気候影響に関するもうひとつの重要な問題は、大気汚染によって引き起こされる雲の変質(エアロゾル・雲相互作用)です。人間活動や自然の営みによって放出される大気汚染粒子(エアロゾル)の中には、水蒸気から雲粒ができる際に核(種)となるはたらきを持つものがあり、それによって雲の性質が変化すると言われています。当グループでは、エアロゾルの気候影響の問題に取り組むために、エアロゾルの数値モデリング研究にも取り組んでいます。特に、エアロゾルの雲・気候への影響を左右する粒子サイズを解像できる数値モデルを開発し、全球高解像度モデルNICAMと結合した数値実験を行っています(図6)。


当グループでは、このように衛星観測データの解析と数値モデリングを組み合わせることで、衛星観測情報によって数値モデルを検証・改良するとともに、衛星観測によって捉えられた自然の姿を数値モデリングによって定量的に解釈するための研究を展開しています。これによってエアロゾル・雲・降水・放射などの大気物理プロセスそのものの理解を深めるとともに、それらがマルチスケールでもたらす気候への影響を精度良く定量化することを目指しています。

取り組んでいる研究テーマの一端については、以下の記事も参照してください。

 ●雲の粒子と地球の気候(日本地球惑星科学連合ニュースレター誌への寄稿記事)

 ●短寿命気候強制因子の環境影響評価(日本リモートセンシング学会誌上の解説記事)



引用文献

Hotta, H., K. Suzuki, D. Goto, and M. Lebsock, 2020: Climate impact of cloud water inhomogeneity through microphysical processes in a global climate model. J. Climate, 33, 5195-5212, https://doi.org/10.1175/JCLI-D-19-0772.1. 【Link】

Nagao, T. M., and K. Suzuki, 2020: Identifying particle growth processes in marine low clouds using spatial variances of imager-derived cloud parameters. Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL087121, https://doi.org/10.1029/2020GL087121.【Link】

Suzuki, K., and T. Takemura, 2019: Perturbations to global energy budget due to absorbing and scattering aerosols. J. Geophys. Res. Atmos., 124, 2194-2209, https://doi.org/10.1029/2018JD029808. 【Link】